生涯君ヲ愛ス



生涯君ヲ愛ス
一体目の前で何が起こったのか しばらく理解出来ずに新一は立ち尽くしていた 「逃げて・・・・」 志保のその言葉に新一はハッと我に返った 「は、灰原・・・・・?」 新一の背中にまわされた志保の腕の力が弱まるのを感じて とっさに志保の体を支えた その瞬間、新一の腕に生暖かいものが流れるのを感じた (血・・・・・・) 新一は、志保の重みにそのまま座り込んだ 「工藤くん・・逃げ・・・」 苦しそうにそう言う志保に、新一はやっと正気にもどった 「しゃ、しゃべんじゃねーよ!今救急車!」 そう言って起き上がろうとした新一の腕を志保は掴むと 首を小さく横にふる 「いいの、もう・・・」 そう言って、消えそうな瞳で笑う 「それに・・、私もう灰原じゃないのよ・・・・?  でも  あなたに呼ばれるなら・・そっちの方が心地いい・・・」 苦痛を押し殺し、志保は精一杯の笑顔で笑う 「ごめんね・・・工藤くん」 「何で・・何でお前があやまんだよ・・っ!」 いてもたってもいられなくなって 新一は力いっぱい志保を抱きしめた どうすりゃいい? どうすりゃいいんだよ!! 腕の中の志保は温かいのに それに答えて抱きしめ返す力のなくなった志保を 新一は力いっぱい抱きしめつづけた 「工藤・・・君、今度・・生まれかわった・・ときには  幸せに・・・」    ・・・幸せに、なろうね・・・・・ 最後の言葉の代わりに最高の笑顔を残し 志保はゆっくりと瞳を閉じた 「・・・灰原・・・?   はいばらー!!!!」 腕の中で、静かに永遠の眠りに落ちていった志保に 新一は力の限り抱きしめ名前を叫び続けた 傷つきつづけたのに 当たり前の幸せさえ得られずに、怯えつづけ 逃げつづけ やっと、幸せをつかみかけたのに 今度こそ、幸せになろうと そう、誓ったはずなのに・・・・・・。 周囲はどよめき、ジンが警官に押さえつけられているのが見えた そこには、満足気に笑うジンの姿があった 「・そっ・・・、くそっっっっ!!」 新一は、ジンに向かって走り出そうとした 全てを奪ったやつを 何もかも、奪いとった奴を!! でも次の瞬間、すごい力で新一の腕が引きよせられた 「・・・オヤジ・・・・」 優作は客の悲鳴と、どよめきで駆けつけてきたのだ 優作は新一を真っ直ぐに見ると 大きく首を横に振った 新一は体を震わせ その場に崩れ落ちた 何もしてやれなかった自分を呪いながら 精一杯の笑顔で死んでいった 志保を想いながら 「オヤジ・・・俺今はじめて  人が人を殺す理由が・・・分かったよ・・・・」 それは初めて 新一が見せた涙だった
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