生涯君ヲ愛ス
結局、新一はアメリカには行かず
博士の家へと帰って来た
お通夜の後、新一は生前志保が使っていた寝室にいた
「何をしておるんじゃ?」
暗闇の中で、1人窓の外を眺めていた新一に
声をかけていいものか迷いながら、博士が言葉をかけた
「・・・博士」
その言葉に新一はゆっくりと振り向き、
窓枠に手をかけて目を閉じた
「こんな形で、戻ってくる事になっちまった・・・・」
新一の言葉に、博士はただうなずく事しかできなかった
「ジンが俺を狙ったのは、灰原が俺をかばうのを
分かってたからじゃねーかって、そう思って・・・・な。」
そう言いながら、今にも流れおちそうな涙をこらえるために
新一は顔を上に向いた
「結局・・・俺がジンからシェリーを奪ったように、
俺から灰原を奪っていったんだよ。
ジンと同じように「奪われたモノ」の感情を思い知れせるために
俺の目の前で、あいつを奪っていった・・・・・」
・・・・だからあの時、ジンは俺に満足気に笑ったんだ・・・・・
新一は空のため息を漏らすと
薄っすらと笑みを浮かべたように見えた
それはやるせない、哀しい笑み
「それで、・・・後を追おうとしとおるのか?」
博士は、机の上にコップと一緒に置いてあるモノに視線を向けた
明らかに解毒剤とは違う。そう、それは
”アポトキシン4869”
「・・・知ってたのか。」
新一は毒薬に視線を落とすと
何もかもおみとうしだなっと言わんばかりに笑った
「これでも一緒に住んでおったからの。
哀くんがその引き出しの一番奥に置いてあったのはもう大分前から知っておったよ」
「でも博士、知っててどうして?」
いつ灰原が飲むかもしてないのに、それを知っていながら
知らないふりをしていた博士に、新一は首を傾げた
「大丈夫じゃと分かっておったんじゃよ、新一と一緒におった哀くんを見ておったら
少なくとも、それを飲んで”死のう”とするようには思えんかったからの」
博士のその言葉を新一は無機質に聞いていたが
やがて安心したかのように微笑んだ
「あいつ、幸せそうだったか?」
新一のその言葉に、博士はコクリとうなずいた
新一はうれしそしそうにもう1度微笑むと
机の上に置いてあった”アポトキシン4869”を手に持ち眺めた
「残念だけど、こいつを飲んで死のうとしてたわけじゃねーんだ」
新一は毒薬を放り投げるとそれを受け止めた
「・・・・・逢えるような気がすんだよ。こいつを飲めば・・・あいつに」
その言葉に、
博士の表情が曇るのが分かった
「また、”コナン”に戻っちまうかもしれねーし
今度こそ本当に死んじまうかもしれねーけど。でも
・・・・逢えるような気がすんだよ。」
新一は、何故かとても落ち着いた口調でそう言うと口元に笑みを浮かべた
「あいつは、今度こそ本当の幸せのために生まれてくるんだよ
もう逃げ惑うことも、負い目感じる事も、抱き続けてきたつらい過去も全て浄化して
今度こそ・・・、2人で幸せにならねーとな。」
その時の新一は、もう何も迷う事はないという
自信にも似たような表情を浮かべていた。
「ガキっぽくって、笑っちまうだろ?」
止めようと思えば、いくらでも止められたはずなのに
新一のその表情に、博士は止める事などできないと
止める権利などないと、そう思わずにはいられなかった
「置いてあるからの、追跡メガネも、蝶ネクタイ型変声期も、
時計型麻酔銃も・・・・・」
「・・・博士。」
新一の声に、博士は出来る限りの笑顔で笑った
「・・・・・生きとる事を、願っておるよ」
新一は、博士に深くうなずくと
振り返りまた、窓の外を眺めた
博士はそんな新一を背中に、そっとドアを閉めた
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